パンとクローバー

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「……というわけで、ぴったりで素敵な贈り物だって思ったんです。すみません、ちょっと言うの恥ずかしくてうまく言えなかったけど」  反動でまだ喉が渇く。「真実の愛」なんて照れくさいセリフを言ったからだ。  花言葉にはどストレートな、素面で言うには照れくさい言葉が少なくない。言葉で言うには照れくさいセリフを、花に隠して託しているのかもしれない。ストレートすぎて気恥ずかしい、そう思うものもある。  でも。このお爺さんを見ていると、そんな言葉も悪くない。そう思えた。 「……そう言われると、照れるな」  そうかそんな意味まであったんだなぁとお爺さんが呟く。 「この歳になって、そんな言葉を聞くたぁ。もうそんな言葉が出てくる映画の主人公みたいな歳はとうにすぎたし、私らには大それた花言葉だが」  観月さんが、ラミネートで挟まれた四つ葉のクローバーのしおりを手に席にやってくる。彼女は「綺麗にできましたよ」と微笑んでそれを手渡した。 「……本当に、ありがとう」  しおりを手にして、お爺さんは俺たちにぺこりと頭を下げた。今までに見たことのないような、満面の笑みを浮かべて。
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