パンとクローバー

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 何だか歯切れが悪い。具合でも悪いのかと様子を伺おうとすると、「すみませーん、注文お願いします」と声が飛んで来た。 「はい、ただいま!」  ちょっとごめんね、と手で挨拶をして俺はオーダーに対応する。 「野菜スープとトーストとコーヒーお願いします」 「かしこまりました」  オーダーを受けてカウンターに伝え、振り返るとココネさんが外に出るところだった。 「あの、また今度、絶対」  レジに小走りで走り寄ると、ココネさんが目を丸くして俺を見つめた。その間多分2、3秒。 じっと見つめられていたせいか、なんだか長く感じられた。 「……また来ます」  彼女はそう言って笑った。カランコロンと音を立てて、その背中が何度もこちらを振り返るのを俺はドア越しに見た。なんだか今日の彼女の行動はいつもと全体的に違っている。首を傾げながら俺は接客に戻った。  そしてそこから数日間、ココネさんは来なくなった。
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