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店員とお客、そこの線引きはつけろと言われるのではと予想しながら俺は謝った。
「何謝ってるの、謝ることなんて何もないわよ。でも……」
観月さんが黒縁メガネのつるを少し持ち上げて、ぽつりと言った。
「あの子のこと、ちゃんとよく見てあげて」
「え?」
どういう意味か飲み込めず聞き返すと、観月さんは祐介に「いらっしゃい」と声をかけ、俺にいつも通りににやりと笑いかけた。
「ほら、さっきココネちゃんきたばっかりだからオーダー、よろしくね」
「あ……はい」
「俺コーヒーで」
「了解」
祐介に答えながら俺は返してもらった黒エプロンを巻く。ココネさんの席にはグラスの水だけ。そうだ、オーダー取りに行かないと。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」
「ホットココア、お願いします」
彼女はいつものように顔を上げてオーダーする。そして何事もなかったかのようにすっと目線を下に向けた。彼女が開いているのはいつものB5のノートだ。
「かしこまりました。……あの」
俺の言葉にココネさんが不思議そうな表情をしながら顔を上げた。
「ありがとう、エプロン」
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