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「あら、いらっしゃいませ。お待ちしてました」
喫茶店のドアを軽やかに鳴らして、老夫婦が店に足を踏み入れる。クローバーのお爺さんと、笑い皺のかわいい上品そうなお婆さんだった。
「もう少しでできますので、お掛けになってお待ちください」
俺がそう言って頭を下げると、お爺さんが照れ臭そうに笑いながらココネさんの隣のソファー席に着いた。
「おお、お嬢ちゃんもいたのか。あの時は本当にありがとう」
「こ、こんにちは」
そんな会話が聞こえる。
程よくとろりと溶けた、焼き目のついたチーズ。それにつつまれた、焼きあがったクロックムッシュをオーブンから出す。粗挽き黒こしょうをふって、ざっくりとナイフで真ん中から切る。
とろりとしたチーズとソースとピンクのハムが熱々のホットサンドから顔を出した。焼き加減はどうやらちょうどよさそうだ。
香ばしいにおいが辺りをつつむ。
「どうぞ、クロックムッシュです」
「あとコーヒーもどうぞ」
手際よく観月さんがドリップポットからカップにコーヒーを注ぐ。
「まあ、美味しそう」
「だろう」
ちょっぴり得意げなお爺さんがなんだか微笑ましくて、同時に味はどうだろうかとドキドキしながら俺は二人が一切れめを口に運ぶ瞬間を見守る。
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