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「……あらとっても美味しい!」
お婆さんが口に手を当て、目を見張りながらお爺さんの肩を叩く。
「やっぱり美味い」
お爺さんもうなずきながらクロックムッシュを飲み込み、もう一切れと口に運ぶ。
「よかった」
俺は心底ほっとする。隣で観月さんがよくやったと言わんばかりに俺に向けて親指を立てた。
「これは今回、お兄さんが作ったのかい」
「はい。前に店長が作ったものが美味しすぎて俺には同じように作れるか不安だったんですけど、でも思い出したんです」
虞美人草を書く時、題名からとりあえず適当に決めた夏目漱石は『自分の小説もこの花と同じ趣になるかならないか、作り上げてみなければ分からない』と言った。この前の四つ葉のクローバーも、見つかるかどうか、探してみないことには分からない。このクロックムッシュも作ってみないと美味しいかどうか分からない。だから不安になる前に自分のやるべきことを。そう思ったことを俺は伝えた。
「あら、物知りさんやねえ。ひょっとしてこの子が」
「そう、花のお兄さんだ」
花のお兄さんって、どっかの番組のお兄さんみたいなネーミングだ。祐介が隣で笑いをかみ殺しているのを、俺はじろりと横目で見る。
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