パンとクローバー

49/52
前へ
/270ページ
次へ
「いえいえ、俺は何も」  実際提案したのは祐介だし、見つけたのはココネさんだ。俺がそう言うと、お婆さんはふふふと笑った。 「何もしてないなんてことあるもんですか。クローバーの花言葉、葉っぱについてる言葉も全部教えてもらいましたわ。もうそれがすっごくすっごく嬉しくて。ふふ」 「おい、もうええやろ」  言葉を遮ったお爺さんの頬が心なしか赤い。そして動揺したのか、お婆さんにつられたように関西弁になっている。俺はそれで察した。  きっと、あの言葉を言ったのだろう。四つ葉が4枚揃った時の意味を。 「ふふ。そうやね、ずっと心に大事に持っときます」  お婆さんが思い出し笑いをする横を見て、俺ははっとした。  横で話をじっと聞いていたココネさんの目から一筋、涙が流れていた。 「よかった……ほんとによかった、です」 「あらあら、優しいお嬢さんやねえ」  お婆さんがココネさんの頭を優しくなでる。「ありがとうね」としみじみと言われて、彼女は涙の跡を拭きながらこくりと頷いた。
/270ページ

最初のコメントを投稿しよう!

557人が本棚に入れています
本棚に追加