ホットココアさんとホトトギス

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 ミルで豆を挽き、サイフォンにセットしてかき混ぜたりなんだか調節したり、滑らかな手つきで彼女はコーヒーを入れていく。コポコポと湧き上がるお湯、上下するコーヒー液。 こうやって淹れるところは見たことがなかったから、見入っているうちにいつの間にか彼女はコーヒーカップをすっと俺の前に差し出す。まるで魔術師みたいな一連の動きだった。  コーヒーを啜る。何も入れていないのに、苦味がくどくなくそのままで美味しい。アロマが沸き立ち、すっと口を通り抜けていく豆の香ばしさを感じながら、ここにバイトできることになってよかったと俺は心の底から思った。 「ところで君、名前は?」 「石蕗(つわぶき) (けい)です」 「馨くんね、よろしく。私、店長の山根観月(やまねみづき)です」  どうぞよろしくと軽くウインクして、彼女は悪戯っぽく笑った。その時やっと気づいたけれど、観月さんは眼鏡が似合っていないだけで、実はかなりかわいい。でもなんだか年上にかわいいというのも違うしそんなことを言える性格でも残念ながらない。  俺はよろしくお願いしますと頷き、もう一度コーヒーを啜った。
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