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闇 3
闇に目を覚ましてからもう一ヶ月以上が経過した。研究員に聞けば経過日数や外の世界のことなどだいたいのことを教えてくれた。
日課の研究が終わると、次の日の研究まで休憩ということになる。といっても私にとってこの時間は苦痛でしかなかった。闇の中でひとりぼっち。何も見えず、聞こえず、私に何かが干渉してくることは決してない。長く眠ることも許されない。
私は、闇という牢獄に囚われているのだ。出口も存在せず、死ぬこともできず、得体の知れない研究に協力することだけを許された脳だけの私。この状態を生きているといっていいのだろうか? これならそこら辺の名前も知らないような小さな虫の方がまだしも生きているといえるのではないか? 虫の方が自由だ、死ぬことだってできる。どうして? どうして私は生かされているんだ……? 本当に研究のためなのだろうか、けれどもしそうだとしても私にそれほどの価値があるとは思えない。簡単な受け答えをするだけなのだ、そんなもの誰にだってできるはずだ。
そもそも、と思う。脳だけの存在になって、私のようにこうして思い悩んでいる人は数多くいるのではないか? ならその人たちはどうなったのだろうか、生き甲斐のない闇のなかで孤独に生きる人が、心を病まないはずがない。精神に異常をきたして研究に使えなくなったらどうなるのだろうか?
もし私が、研究の役に立たなかったら、殺されるだろうか、そして死ぬことができるのだろうか……。
私は少し驚いた。自分が少なからず死にたいと思っていることに……。
──起きていますか?
あの柔らかい声が聞こえた。
──脳波で分かっているんだろ?
──いえ、私は……読めないの……
──そうなのか、もう研究?
こんな状態になって初めて人と会話することの楽しさを、嬉しさを心の芯から感じた。この、研究を通じた会話がなければ私はとっくに精神を病んでいたに違いない。彼女との会話が私の命綱だった。
──まだよ、少し様子をと思って。それと……あなたにいわないといけないことがあるの
──なんだい?
──あなたを刺した犯人が捕まったわ
──ふーん
あまり興味はなかった。犯人が体を返してくれる訳じゃないのだ。
──犯人は中年の男。幸せそうなあなたに嫉妬したそうよ
──えっ、そんな……
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