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闇 4
彼女たちは何を隠しているのだろうか、私は余りに余っている時間を使って考えた。研究が長引くと精神を病みがちだと研究員が前にいっていたけれど、今は考えることがある分まだ救われているのかもしれない。
まず、なぜ隠すのだろうか。
不都合があるからだ。それはどんな不都合だろう、決まっている。研究の妨げになること。
そして、何について隠しているのか。
それは私の生活について、人生についてだ。先日の彼女との会話からそれは明らかだ。
犯人は私のことを見て、幸せそうだと思った。
けれど私に幸せだったという記憶はない。どちらかが嘘だ。私の記憶が嘘なのだろうか、いや、と思う。私が唯一信じられるものが記憶だ。犯人は偏った考えを持っていたのか? けれどそれなら彼女は動揺することなく、そう説明すればいいだけのこと。
私の記憶は本当に正しいのか? ここにきて、私は自分すらも信じられないのだということに気付いてしまった。
──ヨシオさん……考え事ですか?
──ん、ああ、すみません、脳波でそこまで分かるんですね、すごいです
彼女の声ではない、違う研究者だ。
──最近、ヨシオさん疲れてらっしゃいますね。昨日も、眠ってらしたので今日は二日分ですよ
そうか、考えがなかなか纏まらないせいで長時間脳を使いすぎた。
──心は疲れていないですか?
──ええ、大丈夫です
ここで答えを間違えたら、私は研究対象から外され、もう彼女たちと話すこともできない。私は暗闇にひとり取り残される、いつまでも。
──では始めます
──待ってください、少し休んでからでもいいですか? 心は大丈夫なんですが、考え事をしていたもので……
脳だけで、枷となって疲れる体のない私には長時間の思考が可能となり、深い思考に入り込むことができた。けれど、その思考が途絶えると、寝ぼけたような状態になってしまうのだった。まるで夢から急に覚めたような、そんな感覚だった。
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