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闇 5
最近、彼女たちはあまり私に構うことがなくなった。研究の対象から外されかけているのだろうと思った。考え事をしてばかりの私は被験者失格という訳だ。けれど、あの彼女だけは毎日来てくれた、研究になにも関係のない、他愛のない会話をしてくれた。彼女だけは信じていたかった、それでも私にはそれはできなかった。何か理由があって来てくれているのだと思った。そして、彼女は徐々に疲れたような声をするようになった。みずみずしさがなく、くたびれているようにも聞こえた。ある日、そんな彼女に私は聞いた。
──なんで、来てくれるの? 研究対象から外されそうなのは分かっているんだ……、それなのになんで……?
──それは……なんだろ、私にできることはこれぐらいしかないからかな
──最近、何か嫌なことでもあったの? なんだか声が疲れているように感じるんだ……
──そ、そんなこと……
──あるんだろ?
──……
──でも、また隠すのか?
──えっ!?
──分かってるんだよ、何か隠してるってことぐらい、優しくしてくれるのにも何か理由があるんだろうけど、それもいったらいけないんだろ? 研究の妨げになるから。間違ってる?
彼女はすぐには返事をしなかった。
──知ってたのね、合ってるわ
──教えてくれないか……?
──それはできないということもあなたは分かっているはずよ
──じゃあ、毎日来てくれるのはしょうがなくか?
違う、こんなことをいいたかった訳じゃない、彼女は、いいたくても、いえないんだ……、分かっているのに……
──ちっ、違う!
──じゃあどうして来るんだよ! 同情してるのか? そんなものはいらない
──違うってば!
彼女の声はいまにも泣き出しそうだった、けれど私は止まることができない。
──じゃあなんだよ! なんなんだよ……
──ごめんなさい……いうことはできない。けど、これだけは信じてほしい、私はあなたに同情して来ているわけでも、しょうがなく来ているわけでもない。私は私の意思であなたに会いに来ているの
──どうだか
──……またくるわ
彼女はそれから暫く来なかった。
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