1. 儚い世界の少年達

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1. 儚い世界の少年達

 しとしとと降り続く雨。アスファルトが濡れて、信号機の色を映している。行き交う車が水滴をはね飛ばす。  歩行者信号が緑色に変わる。隙間無く並んでいた傘が、一斉に移動を開始する。規則正しくすれ違いながら、縦横斜めに道路を横断する。  電話しながら歩く、スーツ姿のサラリーマン。デコレーションされたピンク色の爪で髪を巻く女子高生。余所見を繰り返した結果、母親に引っ張られていく子供。すかした顔して傘を差さずに歩く、ギターを背負った青年。  街にはいろんな人がいる。自身の目的のため、行き先を目指して交差点を渡る。  優れた人もいれば、そうではない人もいる。誰も自分の在り方に悩んでいるようには見えない。だから彼は、ただ漠然と、歳をとれば大人になり、彼らの中に混ざることができると思っていた。 *     
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