1. 儚い世界の少年達

3/9
前へ
/89ページ
次へ
 茶髪の少年――純が不満げに答えた。逆だ、と彼は思った。卒業までに覚えるべきなのではなく、覚えなければ卒業できないのだ。 「それから、午後も授業はあるんだからな。リソースは残せよ」 「早退届は口頭でも良いですか」  純が軽口を叩くと、少年達の間で再び笑いが起きた。 「その心配は無いよ。手は抜くから」  教師の代わりに長身の少年――真広が答えた。徒手空拳でリーチが短い相手に、防御は必要ない。柄を肩に引き寄せ、上段に構え直す。 「出すのは、ヒロ――お前の早退届だよッ!」  教師が後退しながら、天高く掲げた手を振り下ろした。と同時に、叫んだ純は後ろ足で地面を蹴り、間合いを詰めた。  真広は冷静に距離を測り、袈裟に斬り下ろす。一筋の光が弧を描く。  純は靴を擦らせて急激にブレーキをかけ、後ろに退いたが、それはわずか半歩だった。体の中心線から頭をずらし、刃先の動きを目で追う。眼前すれすれを通り過ぎる刃を、上体を反らせて避ける。弾かれたファスナーが微かな金属音を立てる。  振り下ろされた日本刀の峰を左手で往なしながら腰のバネを溜め、右の拳を突き出しながら前に出る。観客が瞬きする間に、カウンターを取っていた。     
/89ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加