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 煙草を咥えながら、ちょっとした違和感に気づいた。  いつもの所にある筈の灰皿が無い。  慌てて付近を捜してみたが、やっぱり無い。 「灰皿、こっちですよ」  オレのそんな行動を見ていたらしく、シノブは料理の片手間に綺麗に洗われた灰皿を差し出した。  そりゃそうか。  部屋だけじゃなくて、洗濯機や風呂場も綺麗にしちゃうんだから、剣山のように吸殻が刺さった灰皿を見過ごす筈がない。 「程々にした方がいいですよ」 「うるせぇ」  すっかり見違えた灰皿を受け取って舌打ちをした。  なんで初対面の、しかも倒れていた所を保護して面倒まで見てやったガキにそんなことを言われなきゃいけねぇんだよ。  自分の家でくらい、好きに吸わせろ。 「すみません」  そう謝ったシノブの口調は、とても本心からとは思えない。  現に顔笑ってやがるし。  ムッとするけど、悪い気はしない。  なんでだろう。  こいつを見ていると、深みに嵌りそうで嫌なんだよな。  懐かれたら拒めない。  それで、確実に誘惑してしまうだろう。  自分が傷付くって分かってんのに、真っ当な方向に気持ちが向かない。  好きになるのは、望みのない奴ばっかりだ。  このシノブにしたって、高校生じゃなかったら・・・。  オレはどうなっていたかな。
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