その後

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 何日か前、偶然通りかかった雑貨屋で見つけて即購入してしまった。  腕の中の納まりの良さに感動したのだ。  これがあれば寂しくはないな、と。 「丁度いいんだよ」 「丁度いい?」  オレの言った事をシノブが復唱する。  口調は相変わらず不満そうだ。 「お前がいない時に、手持無沙汰で」  今までは、一人で過ごす時間を持て余した事なんて無かった。  大学とバイトに行って、たまに遊んで。  この部屋に帰るのは、寝る為と言ってもいいくらいだった。  必要に迫られて洗濯をして、気が向いたら掃除をする。  それ以外は寝ているだけの部屋。  それが、週に一度はシノブがやって来るようになってから、ここはシノブと過ごす空間になった。  そして、シノブがいない部屋を広いと思うようになってしまった。  この部屋に一人でいるのが寂しいだなんて、思った事なんて無かったのに。 「え!? 俺いますよ、今」  資料を片付けながら、結構恥ずかしい事をできるだけ淡々と言ったら、即座に反論された。  確かに、今はシノブがいる。  けど、シノブは料理中だし、オレはレポート中だ。  お互いに絡む状況にない。 「もうクセになっちゃったから、なんか安心するんだよ」  肌触りの良いクッションを、膝と胸の間で抱き締める。  購入してからずっと、この場所がクッションの定位置だ。  もうずっと前からここにあったかのように落ち着く。 「俺にだって、そんなギュッてしてくれた事ないのに」 「してるだろ」 「してないです!」  オレの横に膝を付いて、拗ねたようにシノブが言う。  たかがクッションに、何をそんなにムキになっているんだ。  それに。 「……してるっつーの」  心当たりなら山ほどある。  身に覚えが無いなどと抜かしやがったら、後で締め上げてやる。
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