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「そうですね」
オレの熱弁を黙って聞いていたガキは、あっさり納得して笑った。
「でも今日はカレーを作ります。材料買ってきちゃったんで」
ガキ特有の無邪気な笑顔を振り撒いて、冷蔵庫の前に置いてあるスーパーの袋を指した。
献立を知ってしまうと、中身はすぐに分かる。
多分、ジャガイモにニンジンに、玉ネギに・・・半透明の袋にうっすらうつっているのは市販のルウか。
「それに、後で料金をせびったりなんてしませんよ。掃除も洗濯も、これから作る晩ご飯も、俺の気持ちです」
気持ち?
気持ちって、何だ?
意味が広すぎて判断に困る。
「・・・・・・趣味なのか?」
「趣味?」
「家事とかそういうの」
どうしてオレが洗い物とか洗濯物を溜めてするのかと言うと、単純に面倒だからだ。
洗濯はともかく、食器は次に使う時に洗う自転車操業のような使い方をしている。
風呂もトイレも、基本的に掃除しなくても気にならない。
大学の知り合いに一人暮らしをしている奴も多いけど、オレのような考えを持つ奴は少なくはない。
いつも部屋を綺麗にしているような奴は、潔癖症か几帳面か掃除が趣味な奴くらいだ。
他人の家でもやるなんて、よっぽどだな。
しかも、それを「気持ち」と言う。
迷惑を掛けたお礼として、という意味なら、オレだったら金や物で済ますだろう。
食材を買ってきたって事は、金を持っていない訳でもないだろうし。
「趣味かぁ・・・。そういう風に考えたことなかったけど、そういう考え方も有りだな」
ガキはブツブツと独り言を呟いている。
それから不意にこちらを向き直して、勢い良く口を開いた。
「はい、趣味です」
律儀なのか、天然なのか・・・。
そんなのはどちらでも良いか。
「先に洗濯物を干してから、色々説明しますね」
そう言うと、ガキは再びベランダに引っ込んだ。
ありがたいけど、何か落ち着かない。
それに、あんなに元気になったなら、せっかく買ってきた風邪薬が無駄になった。
人の好意を無にしやがって。
洗濯物干し終わったら、カレーなんか作る前に叩き出してやる。
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