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と思っていたのに、何故かオレは得体の知れないガキがカレーを作っているのを見守っている。
バイトに行くまでまだ時間があるから、話を聞いてやってもいいと考え、部屋から叩き出すのは保留中だ。
「ユキちゃんって、俺の幼馴染みなんです」
ジャガイモの皮を剥きながら、シノブと名乗ったガキは語りだした。
「俺より6つ年上で、今大学生なんですよ。最後にきた手紙の住所がここだったから、てっきりまだここに住んでいるんだと思っていたんです、けど・・・」
次第に声が小さくなり、少し落ち込んでいるようだ。
少し落ち着かなくて、煙草に火を点けた。
「もう引越しちゃっていたんですね」
「連絡無かったのか?」
「ありませんでした。と言うか、俺も住所変わっちゃったから」
「だったらお前が悪いんだろーが。お前が引越した時に住所を教えておけば良かっただけの事じゃねぇの?」
「返す言葉もありません」
息を吐きながら、二個目のジャガイモに手を伸ばした。
こいつ、手際良すぎ。
本当に趣味なんだな、家事とか。
「これからどーすんだ? ユキちゃんを探すのか?」
雨の中待ち続けて、熱を出すくらい会いたかった相手なんだからそう簡単には断念しないだろう、と思って聞いた。
しかし、シノブは苦笑いして肩を竦めた。
「とりあえず、今回は諦めます。俺も学校あるので」
なんだ。
その程度だったのか。
拍子抜けだ。
「だったらカレーなんてどうでもいいから、さっさと帰れよ。親が心配しているんじゃねぇの?」
行方の分からなくなった幼馴染みをわざわざ探し出そうとするなんてよっぽどの事だと思っていたのに、学校を理由に諦める程度なら大したことではないのだろう。
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