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02
オレがこの部屋に住み始めたのは、大学に入学した3年前からだ。
シノブが探しているユキちゃんとやらがここに住んでいたとしたなら、それ以前ということになる。
自分の前にその部屋に住んでいた奴のことなんか、気にした事も考えた事もなかった。
3年以上前か。
結構前の話だよな。
「お前の前にあの部屋に住んでいた奴?」
大家さんに聞いてみるより先に、もっと身近なウララさんに聞いてみた。
知っている可能性は低いけど、ウララさんはこの大学の生き字引みたいな人だからな。
もしかしたらってことも有り得る。
「あの部屋に住んでいた大学生なら、ウチの大学だと思うんですよね。それで、ウララさんなら知っているんじゃないかと思って」
「お前、あそこに住んで何年だっけ?」
「3年です」
ウララさんが記憶の引き出しを開けている、ということは、心当たりがあるらしい。
半分冗談のつもりで聞いたんだけど、これはもしかするともしかするのか?
この学校の主だな、この人は。
「あー・・・名前は忘れたけど、憶えてるぞ」
驚いたことに、本当に引き出しから答えを取り出した。
「マジですか!?」
「ちょっと噂になったからな」
「噂って?」
意味有りげなウララさんの言い方が気になる。
「中退の理由が、付き合ってた彼女の妊娠だったから」
あまりにも予想外な言葉を、ウララさんはサラリと言った。
「は・・・?」
「ボクたちも気をつけましょーねー、って持ちきりだったんだよ」
「ちょっと待ってください。妊娠って・・・」
シノブの話を聞いて、ユキちゃんっていうのは漠然と女の子だと思い込んでいた。
けど、今のウララさんの言い方は男だよな。
思い返せば、シノブもユキちゃんが女だなんて一言も言ってなかったかも。
そっか。
ユキちゃんは男だったのか。
それで、彼女が妊娠して中退したから、あの部屋を出て行った、と。
「確か、学校辞めて結婚して就職したって。どっちかの親の所に戻ったって聞いたけど」
思い出せねぇな、と頭を掻いた。
こっちにしてみれば、そこまで分かるとか思ってなかったから充分すぎる情報だ。
さすがはウララさん。
こういう時は頼りになるな。
真相が分かったのは良いけど・・・。
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