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「大体、何でハンバーグなんだよ。肉っつったら焼き肉だろ、焼き肉」
「って言いますけど、ハンバーグの方が手間はかかっているんですよ」
「だったら手間も掛からず美味い焼き肉のがいいだろ」
「この手間に愛情が詰まっているんですよー」
「あ、あい・・・!?」
「せっかくだから、目玉焼き乗せちゃいましょう」
あれから数日後、シノブは本当にハンバーグを作りにやってきた。
例によって、材料持参で。
不足している調味料も買い込んできやがった。
あまり使っていない台所は、シノブの城になりつつありそうだ。
ハンバーグなんて、挽き肉を使っていること以外、どうやって作るかなんて知らなかったけど、シノブの言うように結構手間が掛かっている。
まったく器用に作るよな。
本の類は一切無しで、何の迷いもなく仕上げていく。
何でも作れるみたいな事を言っていたのは本当のようだ。
前の時のカレーも見事だったけど、あれはある意味定番料理だからな。
オレだって、その気になれば作れないことはない。
大体、カレーなんて市販のルウを使えば味の違いなんてほとんどないだろうし。
だけど、ハンバーグは別格だ。
挽き肉を捏ねて焼けば完成だと思っていた自分がちょっと情けない。
「そろそろ出来上がりますから、深尋さんは座っていてください」
今回も遠巻きに見守っているだけだったオレに、シノブはそう指示を出す。
言われなくたって、そろそろ座ろうと思っていたところだよ。
それほど広くない部屋の中で、ベッドを背凭れにして床に座る。
手持無沙汰になって、煙草に火を点けようとして手が止まった。
灰皿は手の届く範囲にある。
なのに、火を点けられないと思ってしまった。
シノブに言われたことを気にしている訳じゃないけど、未成年と同じ空間にいるのに良くないよな。
「吸わないんですか?」
ベランダで吸う選択肢も交えつつ、静かに葛藤するオレの様子を見ていたらしいシノブが笑いながら訊く。
誰の所為だよ、と言ってやった所で伝わらないだろうな。
「いや、ちょっと考え事」
照れ隠しそう言って、煙草を箱に戻した。
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