289人が本棚に入れています
本棚に追加
外開きのドアは、そいつが座り込んだままでは開きそうもない。
「オイ」
少し大きめの声で言って、もう一度、今度は傘で突いてみる。
「・・・・・・ん」
今度は少し反応があった。
鬱陶しそうに身じろいだそいつの身体は、背凭れにしていたドアからズルズルと滑り落ち、完全に通路に横たわる格好になった。
心なしか、さっきより邪魔度が増している気がする。
「あれ?」
くぐもった声がして、通路に横たわっている頭が動いた。
ようやく目を開けたそいつは、状況が飲み込めていないらしく、のそっと上体を起き上げながら辺りをキョロキョロと見回した。
「寝ちゃったのか」
独り言を呟き、無造作に濡れた頭を掻く。
「やっと起きたか、このヤロー。もう少しで通報する所だったぞ」
「へ?」
声を掛けてやった事でオレの存在に気づいたらしいそいつは、間抜けた声を上げてこっちを見た。
目が合って、瞬間的にヤバい奴ではないと判断した。
人を見る目がそれほど長けている訳じゃないけど、そのガキの表情があまりにも間抜けていたから。
多少強めに出ても大丈夫な奴だと勝手に判断して、やや高圧的に攻めることにした。
「人の家の前で寝てるんじゃねぇーよ。起きたならさっさと退け」
座ったままでいるそいつをゲシゲシと蹴って、何とかドアの前から退かそうとした。
それでようやく、足蹴りから逃れるように、占拠していた場所から移動しやがった。
ここまで長かったな。
大学の授業とバイトで疲れているから、早く風呂入って寝たいのに、無駄な時間を過ごしちまった。
「あの・・・」
鍵を開けようとした所で、びしょ濡れのガキが申し訳なさそうに声を掛けてきた。
なんだよ。
まだいたのかよ。
さっさとどっか行けばいいのに。
「何?」
一応、返事はしてやる。
立ち上がったそいつは、華奢な身体のワリに思っていたより背が高かった。
高いと言っても、比べた基準はお世辞にも長身とは言い難いオレだけど。
「この部屋の人ですか?」
大真面目に訊かれた。
ジッとこっちを見る視線が痛いんですけど。
「だったら何?」
「ここに住んでいる人の知り合いじゃなくて、本人ですか?」
「オレがここに住んでいると、何か問題でもあんの?」
繰り返される質問にイライラして、口調が少し強くなってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!