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「ユキちゃんのことなんですけど」  ハンバーグ定食を食べながらシノブが口を開いた。  美味いと褒めていた思考が、一瞬で止まって固まった。 「そんなに気にしてくれているのに悪いんですけど、見つからなかったらそれはそれでいいんです」 「・・・は?」  聞きたかったような、聞きたくなかったような言葉だ。  ユキちゃんの存在がそれほど重要でなかったことに安堵する一方で、オレの努力と不安を返せと言いたくなる。 「近所に住んでいたって、本当にそれだけなんです。ただ、ウチは母子家庭で、ユキちゃんの家は共働きだったから、よく一緒にいたってだけで。 主に、俺が面倒見てもらっていたんですけどね」  当時を懐かしむようにシノブが語りだした。 「ユキちゃんが高校に受かった日、2人でファミレスに行ってパフェを食べたんです。合格おめでとうって感じで、一番高いやつ」  嬉しそうなシノブの表情に、こっちまで嬉しい気分になる。  中学生と小学生の微笑ましい光景を想像してしまう。 「本当は俺がお祝いで奢ってあげたかったのに、ユキちゃんの奢りでした。その時の俺の所持金じゃ、2人分のパフェを払うのは無理だったんで」  確か、シノブとユキちゃんは6歳違いだと言っていた。  ユキちゃんが15歳だとしたら、シノブは9歳か。  一番高いパフェ2人分はちょっと厳しいか。  そう考えると、6歳の年の差はかなりのモンだよな。 「それで、その時に約束したんです。俺が高校に受かったら、今度は俺がユキちゃんにパフェを奢るって」  何と言うか、可愛い話じゃないか。  シノブが純真すぎて、自分が汚れている気分になる。 「それで、パフェを奢りに来ただけなんで」  照れ隠しに少し恥ずかしそうに頭を掻く仕草が、年相応に可愛く見えた。 「本当は春休み中に来たかったんですけど、色々あって・・・」 「入学準備とか?」 「はい。あと俺、寮生なので、軽く引越しもありまして」 「寮生!? じゃあ、門限とかあるんじゃねぇの?」 「ありますよ。でも、申請しとけば大丈夫です」  オレは寮なんて入ったことがないけど、そういうもんなのか。  イメージ的には、意地でも門限までに帰るってもんだと思っていたんだけどな。
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