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「だけど、本当にいいのか? ユキちゃんのこと」
やけにあっさり諦めるから、こっちが心配になる。
「そんな約束、憶えているの俺だけかもしれないですし」
「憶えてるよ」
思わず口から出てしまったオレの言葉に、シノブは驚いたようにこちらを見た。
「お前がそれだけ大事にしている思い出なんだから、ユキちゃんだって憶えているよ」
全く根拠のない事を口走ってしまい、激しく後悔する。
ユキちゃんのことなんか何も知らないのに、何を言っているんだよ、オレは。
シノブが寂しそうな表情をしたらフォローしてやりたいと思ったとか、大きなお世話だっつーの。
「オレだったら憶えている、と思う」
苦し紛れにそんな事を言ったところで、気恥ずかしさは拭えない。
大体、「オレだったら」って何だよ。
そんなの誰も訊いてないって。
ちらりとシノブに視線を向けると、何故か嬉しそうにこちらを見ている。
「深尋さんは優しいですね」
心に沁み込むようなシノブの言葉が胸を締め付ける。
無防備にそんな事を言うな。
オレみたいな奴に、シノブの素直で真っすぐな感情を受け止める自信がない。
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