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「ごちそうさまでした」  完食した後の皿を向かって手を合わせる。 「お口に合いましたか?」  少し不安そうならまだしも、そんな筈ないと自信ありげに訊いてくる。  「うまい」とか「店が出せる」とか褒めちぎりながら一口も残さず食った人間に向かって訊くなよ。 「余分に作った分は冷凍しておくんで、食べたい時にレンジで温めてください」  主婦だな、こいつ。  気が利くというレベルじゃない。 「深尋さんは綺麗に食べてくれるから、作り甲斐があります」  シノブは満足そうにそう言うけど、これでいいのか疑問が残る。  倒れていた所を保護した礼にしては、ちょっとやりすぎだろ。 「食っておいてなんだけど、材料費とかってどうなってんの? 言っとくけど、オレ金無いからな」  格好良く材料費くらいは払ってやりたいところだが、生憎と持ち合わせが無い。 「心配しないでください。俺の趣味に付き合ってもらっているだけで十分ですから」 「でもなぁ」  シノブはそう言うけど、これじゃ、高校生に飯作ってもらっているだけじゃなくて、奢ってもらっているって感じだよな。  感じじゃなく、間違いなくそうなんだけど。  成人としてのプライドが・・・。 「俺が、深尋さんに食べてもらいたくて作っているんです。だから、深尋さんは食べたいものを言ってくれればいいんです」  力強いシノブの言葉に洗脳されそうになる。  生活面ではそれはとてもありがたいが、精神的には辛い。 「お前、本当に次は焼肉のつもりなのか?」 「はい」  元気よく頷くシノブに、オレの複雑な心境を感じ取れる筈もない。  これ以上は、もう駄目だ。  たかが高校生のガキだって軽く見ていた筈なのに、こいつに真っすぐな瞳で見つめられると、胸が痛いくらいに嬉しくなる。  これは、抱いてはいけない感情だ。  暗くて邪な感情。  そんなものを抱いてしまったら、もうここには来ないでくれ、と伝えなければいけなくなった。
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