289人が本棚に入れています
本棚に追加
「それは、お前がオレの言っている意味を分かっていないからだ」
「分かっているつもりです」
「分かってねぇよ!」
あまり深く考えていないに違いない。
実際に、オレが迫ったらシノブは引くに決まっている。
これ以上ないってくらいに。
その想像力も持たない奴が何を言っても、説得力はない。
「じゃあ、分からせてください」
突然、とんでもない事を依頼された、気がした。
空耳の可能性が高いので訊き返す。
「は?」
「俺のこと、誘惑してください」
はっきりとした口調でシノブが言う。
「・・・何で?」
「されたいからです」
「・・・ちょっと、意味分かんないな」
「深尋さんに誘惑してもらいたいです」
真面目な顔して何を言いやがる。
無知とはこれ程にも恐ろしいものなのか。
「いや、だから、高校生相手に、それは色々と拙いって言ってんだろ」
しどろもどろになってしまって、とんでもなく引いているのは自分の方だと気付く。
おかしい。
何故オレが、こんなに動揺しなければならないんだ。
「よろしくお願いします」
念を押すようにそう言ったシノブは、恐ろしいくらいに笑顔だった。
最初のコメントを投稿しよう!