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来客を告げるインターホンが鳴ったのは、水曜日の夕方のことだった。
玄関の扉を開けると、制服姿のシノブが立っていた。
高校生という立場上、平日には来ないものだと思い込んでいたので驚いた。
「シノブ?」
「はい。突然押しかけてすみません」
高校生の制服に詳しくはないのでどこの学校なのかは分からないが、ブレザーにネクタイという、今時では特に珍しくもないデザインの制服を着ている。
この辺りでは見かけない制服に思えるから、もしかしたら遠くの学校なのかもしれない。
だとしたら、こんなに頻繁にやって来るのはおかしいか。
「今日は、これだけ置かせてもらいたいと思って来ました」
と言ってシノブが見せたのは、やけに大きな箱だった。
厚みはそれほどではないが、抱えるほどの大きさだ。
そして重そうだ。
「次は焼肉って言っていましたけど、この部屋ってホットプレートないじゃないですか」
当然のように言うのが気に入らないが、確かに、そんな年に数回も使えば上等な、収納にかさばる物は持ち合わせていない。
が、どうしてお前がそれを知っている。
前に掃除をした時か?
そんなに隅々まで見たのか?
オレのプライバシーはどうなっているんだ?
「だから持参しました」
と言われて見ると、箱には確かにホットプレート的な文字が書かれているし、大きさも妥当だ。
しかし気になるのは、箱に貼られている目立つ赤い紙。
それは、大きな物を買った時に店の人が「購入済み」の印に貼ってくれるものではないか?
ということは・・・。
「新品?」
「はい」
シノブが無邪気に頷く。
「買ってきたのか?」
「はい」
同じように頷くから、眩暈のような症状に襲われた。
「返してきなさい」
「セール品なので無理です」
明朗にそう言い放って、新品のホットプレートを玄関の中に置いた。
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