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「わざわざ買うか!?」
狭い部屋の中で存在感を放つ大きな箱を指して文句を言う。
「無いなら無いで諦めろよ、焼肉を」
「深尋さんのリクエストですから、諦めるなんてできません」
そう言いながら靴を脱いだシノブが、ホットプレートを部屋の奥へと運ぶ。
「しかも、勝手に人の家に持ってくるし」
あまりにも遠慮のない行動に、思わず嫌味が口から出ていた。
しかし、シノブは全く気にした様子もなく笑顔をこちらに向ける。
「結構重いんで、食材と一緒に持ってくるのは無理だなって気付いたんですよ」
誰もそんな事は聞いていない。
「邪魔なら、使い終わったら持って帰るんで大丈夫ですよ」
「持って帰るって、お前、寮生だろ」
この部屋でも邪魔だと思うような物を、寮なんかじゃもっと邪魔だろうに。
って、オレが気にしているのはそんな事でもない。
「じゃなくて、お前の金銭感覚はどうなってんだって話だよ!」
このホットプレートだけじゃない。
食糧費だけでもそれなりの出費だろう。
オレですら厳しいと思うような出費を、高校生がどうやって賄っているんだ。
「お前、バイトは?」
「していませんけど」
「じゃあ、小遣いで買ったのか」
バイトをしていないのなら、収入源は親からのお小遣いしか思いつかない。
その金は、こんな事に使う為のものではないと断言できる。
「一晩面倒を見てやったとはいえ、オレなんかの為に使い過ぎだ」
せっかく心配をしてやっているというのに、シノブは虚をつかれたような表情を一瞬見せた後、すぐに満面の笑顔になった。
説教じみたことは言ったかもしれないが、笑顔になるような事言った覚えはないぞ。
「そんなに気になります? 俺のこと」
どうしてそういう発言が飛び出すんだ。
「お前の金銭感覚がな!」
イラっとする言い方をしやがったので、つい強い口調になる。
こいつは言葉のキャッチボールができないらしい。
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