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オレが言いたい事が伝わっていないと確信したので、足元に置いてあった鞄から財布を掴み取って、入っていた札を全部取り出した。
「今、持ち合わせこれしかないから」
使い古した薄い財布に入っていた千円札3枚をシノブに差し出す。
オレなりの、年上としてのケジメだ。
奢ってもらってラッキーと言える程、気楽な性格じゃない。
シノブに受け取る素振りがないから、胸元に押し付けた。
「受け取れよ。足りないだろうけどさ」
本当は、今までの食糧費等に手間賃とか上乗せして恰好良く余分に払ってやりたい所だけど、生憎とこれが今のオレの精一杯だ。
シノブの手が動いたので、素直に金を受け取るのかと思ったら、シノブが掴んだのはオレの手だった。
「だったら、深尋さんの身体で払ってください」
シノブが何を言ったのか、すぐには理解できなかった。
「え?」
混乱するオレの手を、熱を帯びたシノブの手が更に力強く握りしめる。
何の冗談かと思って顔を上げると、こちらを見るシノブの瞳が恐ろしいほど真剣で後退りそうになった。
「あっ、でも、あれから考えたんですけど」
今度は、本能的に逃げようとするオレの肩を逆の手で掴みながら言う。
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