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だけど、悪いのは全部こいつなのだから仕方ない。
同じ事を何度も訊くな。
「すみません。そういう訳じゃないんです」
少し焦ったように早口でそう言って、困ったように目を泳がせた。
何が言いたいんだよ。
「ただ・・・俺、ここに住んでいるって思っていたから」
「は?」
「ごめんなさい。ちょっと今、混乱してて」
言葉通り、かなり動揺しているようだ。
大丈夫か、こいつ。
と、心配してやった直後、そいつはオレの両肩をガシッと掴んで至近距離に迫ってきた。
「もしかして、あなたが、ユキちゃんですか!?」
あまりにも真剣な表情と、肩を掴む手の力に圧倒されてしまった。
と言うより、全く心当たりのない呼び名だった所為だろう。
「誰だ、それ?」
と、聞き返した直後、あろう事か濡れ鼠なガキは、オレに凭れ掛かるように気を失いやがった。
ガクリ、と力無く倒れこんだ身体を咄嗟に支えてしまって後悔した。
反射的に手が出てしまったけど、このまま床に捨てても良かったのに。
うっかり支えてしまったおかげで、気分的に捨てる事ができない。
幸い、というべきか、ここは家の目の前だから運んでやってもいいけど、見ず知らずの奴を一人暮らしの部屋に上げるのは如何なものか。
もしオレが妙齢の女性だったなら、迷わず救急車と警察を呼び寄せる所だが・・・。
腕っ節の自信に欠けるとはいえオレも男だし、いざとなっても何とかなるだろ。
救急車とか警察なんか呼ぶと面倒そうだしな。
こいつの目が覚めるまでなら置いてやってもいいか、という軽い考えが纏まったので、ズルズルと引き摺るようにして正体不明のガキを部屋の中に招いてやることにした。
猫や犬ならともかく、人間なんて拾っても邪魔になるだけなのにな。
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