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何でオレが、って文句を言いつつも世話をしてしまったのは、ちょっとした期待と言うか、下心があったからなのかもしれない。
下心って言うのは言いすぎか。
人違いだと分かっていても、寝ぼけて握られた手が熱くて振り払えなかった。
手を握りながら寝顔なんて見ていたら情が生まれてしまって、どうした事か可愛く思えてしまったんだ。
「でもだからって、手なんか出してないですからね!」
ウララさんの視線が気になって、勢いよく念を押してしまった。
まだ授業が始まる前で本当によかった。
授業中だったら摘まみ出されていたに違いない。
「そんなムキになるなよ。逆に怪しいぞ」
まったくだ。
自分でもそう思う。
ただ、拾ったガキがオレの恋愛対象となる可能性があるということを知っている人間からのその発言はちょっと聞き捨てならない。
「ウララさんの所為です」
「人の所為にするな」
「そういう目で見るから」
男だったら誰でもいいとかはないだろうけど、棚ぼたでラッキー程度は思われているに違いない。
「被害妄想だ」
「じゃあ、好みだったとか聞かないでくださいよ」
「好みだったんだろ?」
「だーから!」
「お。センセが来たぞ、静かにしろ」
タイミング良く(ある意味悪く)授業が始まってしまい、話はそこまでとなった。
言われっ放しで納得できないオレは、授業なんてそっちのけでウララさんに対抗する言い訳を考えていた。
少しの期待があったとは言え、オレがあんなガキに手なんか出す訳がない。
いやいや。
何だよ、少しの期待って。
そんなのしても虚しいだけって分かってるよ。
本当にただ泊めてやっただけだ。
それも成行きだけどな。
拾ってしまった以上は、ちゃんと面倒みないといけないとも思っている。
だから、今日は風邪薬を買って帰ってやろうとしている。
それも下心と取られるのは癪だな。
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