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「完璧な円なんてだれも追い求めてなくて、ただそれがきれいだから眺めて、感動する。人間のごくごく自然な感情を揺すぶられるような気がして」
「うん」
握りしめたてのひらから、貴裕の気持ちが伝わる。それはいとおしい、という気持ちと同じことを言っているような気がした。
「俺、蒼一さんは満月みたいだって思ってたんです」
「……僕が?」
「うん。明るいところでは全然目立たないけれど、静かにきれいな光を放っていて、暗闇の中にいる人は、その優しい光に癒されるんだ」
「……」
「自分じゃ全然気づいてないけど、きっとたくさんの人が、蒼一さんに癒されてる」
貴裕が言ったことは、正直よくわからなかった。僕は、貴裕が思うほどいい人ではないから。
それでも、僕が側にいることで、貴裕にとって少しでも力になれるなら、癒されるのなら。
そう思って、貴裕の手を、同じくらいの力で握り返す。
青白い月の光が、いつまでも僕たちをそっと照らしていてくれた。
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