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「浅野くん、こんなにぶちんが好きなの?」 「そういうところがいいんです」 「健気ねえ」  そう言って、董子は席を立った。 「後はごゆっくり。浅野くん、蒼一をよろしくね」  そう言い残して、いつものようにすたすたと行ってしまう。  わけがわからなくて、首を傾げながら浅野を振り返る。浅野は「これです」と言って左脚を指差した。 「義足を新しく作ったり、身体に合わなくて作り直したりする時に、お世話になるんです。更生相談所の職員さんに」 「ああ、それで」  と言ったものの、董子が今の職場に異動してきたのは二年前だ。十年も前から知り合いとは、一体どういうことなのだろう、と考え込んでいたら、穏やかな表情が一瞬で変わって浅野が僕をぎっと睨みつけてきた。 「どうして名前で呼ぶの?」  いきなり話題を変えられた。しかも、声が怒っている。 「水城さん、蒼一って呼んでた。なんで?」  強い口調にたじろぎながら、慌てて「友達なんだ」と弁解する。 「保育園からずっと一緒の、幼馴染。小さい頃からずっと蒼一って呼ばれてる」 「……それだけ? 彼女とか、倉橋さんの初恋の人とかじゃない?」 「それは絶対ない。だいいち彼女結婚してるし、子どももいるよ」 「なんだ、」と浅野が小さくつぶやくと、次の瞬間にはもういつもの笑顔に戻っている。 「俺、今から蒼一さんって呼びます。蒼一さんも、俺のこと名前で呼んで。あ、俺は呼び捨てでいいですから」 「ほら呼んでみて」と促されるけど、なんだか照れくさくてすぐには呼べなかった。それでも浅野が呼べ呼べとうるさいから、しぶしぶ「貴裕」と口に出した途端、猛烈な恥ずかしさに襲われ、一瞬で顔が熱くなる。 「蒼一さん、可愛い」  耳まで真っ赤になった僕を見つめながら、浅野が嬉しそうに目を細めた。
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