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二十分ほど経って、貴裕の車が到着した。駐車場まで走ろうと思ったが、ものすごいどしゃ降りで仕方なく傘を差す。それでも雨の勢いに負けて、車に乗り込む時には肩の辺りがびしょ濡れになった。
「すげえ雨。ワイパー最速でも、よく見えなかったもん」
「ゆっくり運転しろよ」
僕のアパートから車で走って十分くらいの、いつも走る運動公園の近くに、貴裕のアパートはあった。
「雨の日は滑りやすいから」と慎重に歩く貴裕に合わせて、ひとつの傘でドアの前まで辿り着いた頃には、ふたりとも全身ずぶ濡れになっていた。貴裕がドアの鍵を開けて、促されるままに玄関に入った。
貴裕から借りたタオルで、濡れた髪と服を拭った。着替えを差し出されたが、断った。それならばと言って渡されたドライヤーで適当に衣服を乾かす。室温は高いから、風邪を引く心配はなさそうだ。
アパートは新築なのだろうか、とてもきれいだった。玄関を入ってすぐのところにトイレと浴室と洗面台。部屋は十二畳ほどのリビングダイニングに、6畳の寝室。僕のワンルームよりずっと広い。
「大学時代は家賃二万円のぼろアパートに住んでたんすよ。就職したら絶対広いとこ住んでやるって決めてました」
部屋には僕が寝転んでも十分な大きさのネイビーのソファが置かれている。いつの間にか着替えを済ませた貴裕に「そこに座っててください」と言われて、おとなしく腰掛けた。
部屋を見回す。ローテーブルにはノートパソコンと雑誌、飲みかけのコーヒーが入ったパンダの絵柄のマグカップ。メタルラックにテレビとオーディオと、たくさんのCD。それからサボテンの鉢植え。観葉植物の大きな鉢が窓際に二つ。小さなスツールが所々に置かれているのを不思議に思って訊ねると、「家のなかではたいてい義足は脱いでるから、どこでも腰掛けられるように置いてるんです」との答えが返ってきた。
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