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「近所においしい洋食屋があるから、食いに行きましょう」と提案され、二人で出かけた。  あれからまた身体を触れ合って、感じすぎてそのまま気絶するように眠ってしまい、目覚めた頃には夕刻を迎えていた。  老舗の洋食店らしく懐かしい雰囲気の店で、貴裕おすすめの焼きカレーを注文した。ハンバーグカレーの上に生卵と、チーズをたっぷりとかけてグラタンのように焼いてある。カレーはかなり辛口で、半熟の卵と混ぜながら食べるととてもおいしかった。口直しにケーキも注文する。貴裕はチョコレートケーキ、僕は苺のタルトを頼んで、半分ずつ分けあって食べた。男二人が甘いものをつつき合う、というのもなんだかおかしな光景だなと思いながら、それでもそんなことが恋に浮かれている僕たちには楽しくて、くちびるの端にクリームを付けてにっかりと笑う貴裕が可愛かった。  店を出ると貴裕が「あ、満月」と声を上げた。空を見上げると、北西にまんまるのお月さまが輝いていた。 「あんなに雨降ってたのに、よく見えるな」 「うん」  しばらく二人ならんで、まあるい月を眺める。貴裕の手が伸びてきて、手を繋ぐ。 「俺、満月が好きなんだ。満月ってよく見たら、完全なまんまるじゃなくて、必ずどこか欠けてる。それでも、みんなこんな風に『満月だね、きれいだね』って言いながら眺めてる」  貴裕が月を眺めたまま、ぎゅっと手に力を込めてくる。
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