4

1/8
362人が本棚に入れています
本棚に追加
/52ページ

4

 貴裕と付き合ってから二年目の春に、僕たちは一緒に暮らし始めた。  どちらかの部屋に入り浸る日々が続いて、それならいつか二人で暮らそうと、付き合い始めた当初から適当なマンションを雑誌やネットで物色していたのだ。  二年目に入ってからは本格的に不動産会社を巡って、ようやくこれだと思うマンションに出会った。2LDK、十四畳のリビングダイニングと、八畳の部屋が二つ。僕たちの生活にちょうど良い広さの部屋。立地も互いの職場まで車で十分とかからないし、図書館にも運動公園にも近い。実際に部屋を見て、その日当たりの良さやバルコニーからの眺めの良さも決め手となって、その日のうちに契約を済ませた。不動産屋からの帰りの車で、「やっべえ、とうとうやってしまった!」と貴裕がハイテンションで叫んだのが可笑しかった。  一緒に暮らし始める前に、貴裕の実家へ挨拶に伺った。貴裕は僕とのことを最初から家族に話していたし、両親共に認めてくれているというのは聞いていたが、それでもものすごく覚悟のいることだった。  実家へ向かう車の中で、緊張のあまり真っ青になった僕を見て、「取って食われたりしませんから落ち着いて」貴裕と笑っていたが、息子が男の恋人を連れてくるのだ。反対はしていないにせよ、大歓迎とはいかないはずで、そう思うとやはり落ち着かなかった。  そんな僕の怖れはまったくの杞憂で、貴裕の家族は本当にあたたかかった。  両親ともにまだ若く、四十台半ばで、お母さんはきはきとした明るい人。そしてお父さんはのんびりとした癒し系だ。詩織ちゃんという高校生の可愛い妹もいて、しどろもどろで挨拶する僕をみんな笑顔で迎え入れてくれた。そこまで歓迎されるなんてまるで想像していなかったから、正直面食らってしばらく呆然としてしまった。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!