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 そんな僕をよそに庭でバーベキューパーティーが始まり、和気あいあいとした雰囲気の中で僕は次第に落ち着きを取り戻し、読書が好きだという詩織ちゃんとも好きな作家の話で盛り上がってすっかり仲良くなった。帰り際、お父さんとお母さんから「息子をよろしくお願いします」と頭を下げられ、「こちらこそよろしくお願いします」と僕も深々と頭を下げた。  僕はと言えば、貴裕を紹介するどころか、自分がゲイであることすら両親に伝えていない。僕の両親は七十歳近い高齢だし、田舎で農業を営んで細々と暮らし、僕が実家に帰省する度に「早く孫の顔を見たいもんだねえ」なんてぼそりと呟く人たちだ。息子が同性愛者なんて到底受け入れられないだろうし、今さらカミングアウトする気にもなれない。  その一方で、両親に僕を紹介してくれた貴裕の誠意に応えられない自分の勇気のなさが、情けなくも感じる。  しかし貴裕は、「家族それぞれの事情があるのだから、無理しなくていいです」と言う。 「俺は、蒼一さんと一緒にいられれば、それでいい」  そう言って髪を撫でてくる恋人の優しさに、甘えるように縋りつく。 「ごめんな」 「俺は、蒼一さんがそばにいてくれるだけでしあわせだから」 「どんなに蒼一さんのことが好きか、見せてあげられたらいいのに」  貴裕が僕に囁く言葉が、甘くせつなく耳に響いてくる。僕も同じように思う。この気持ちが見せ合えたら。  それでも、気持ちはどうしたって見えない。見えないから不安に揺れたり、信じられなくなったり、ひとり悲しくなる。  そして見えないからこそ、お互いのことをもっと知りたくて、近づき、触れ合い、繋がってひとつになりたいと願うのだろう。
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