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 真夜中の薄暗い部屋の中、カーテンをそっと開けた。窓からは高く昇った満月が見える。ベッドの上に膝を抱えて座り、白く優しく輝く月をずっと眺めていた。  悪性骨腫瘍。俺の病気の名前だ。骨のガン。俺はガンでもう一年近く入院生活を送っている。入院したまま小学校を卒業して、中学生になった。  薬の副作用でいつも気持ち悪いし、実際吐いてしまうし、髪は全部抜けてしまってニット帽を被っている。帽子を被るなんて恥ずかしい。しかもそれが、やたらと派手な黄色なのだ。だけど不器用な母さんが俺のために編んでくれたものだから、仕方なく被っている。  そして、パンパンにむくんだ顔。アンパンマンかっつーの、と窓ガラスに映る自分を見る度に突っ込まなきゃ、やってられない。耐えられない。  小さな頃から足が速くて、運動が大好きだった。小学二年生から始めたサッカーは特に好きで、夢中になって練習した。地元のFCでも部活でもエースストライカーだった。  それが今ではこのザマだ。ガンの転移を防ぐため、左脚は切断した。  もう二度と、前みたいにボールは蹴れない。  中学で同じクラスだという奴らや先生が、手紙を送ってきた。『頑張って。負けないで。』そんな言葉が並んでいた。でも、一体何を頑張れというのだろう。頑張るってのは、目標があって、ゴールがあるから頑張れるのであって、俺みたいにいつガンが転移して死ぬかもしれない奴にそんなこと言われたって、はっきり言って迷惑だ。ざっと目を通して、結局手紙は全部破り捨てた。
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