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 こんな生活が一年近く続いている。正直、自分がなんのために生きているのかわからない。苦しくて、辛くて、いっそ死んでしまえたら楽なのに、と思ったこともある。  でも俺は決して人前で泣かない。弱音を吐かない。  俺の前で必死に明るく振舞う母さんを泣かせたくないから。病気で金のかかる俺のために夜遅くまで働いている父さんの気持ちを、無駄にしたくないから。俺に付きっきりの母さんと離れて、まだ小さいのに我慢してくれている詩織に、これ以上悲しい思いをさせたくないから。  それでも、一人静かに月を眺めている時だけは、泣いていいような気がした。この世界に俺と月だけが存在していて、月は俺の気持ちを何もかもわかってくれていて、優しい光が、俺を慰めてくれる。そんな風に思えた。その晩も、俺はちょっとだけ泣いた。声も出さず、涙だけ流しながら。  入院していると、いろんな人がやって来る。音楽を演奏したり、劇団の人だったり。土曜日はピエロの日だ。  いつも来てくれるピエロのお姉さんは、身体は小さいけれど、明るくて笑顔が可愛い。そして、俺を真っ直ぐ見つめる。その目に少しも憐れみが浮かんでないところが、俺は気に入っている。  もうピエロを見て喜ぶ年齢でもないし、お姉さんとは普通に話をすることが多かった。俺を子ども扱いせず、対等に話してくれるお姉さんとの時間を割と楽しみにしていたけど、別の病院に行くことになったらしい。会えなくなるのが残念だった。
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