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「……ずるい」
「ん?何か言った?」
「…………ずるいよ」
堪えていた涙が溢れてきて、顔を覆った。俊が「え、ちょっ、待って」と焦っている声が聞こえる。
さっきから男に絡まれてただでさえ目立っていたのに、泣き出したからさらに目立ってしまっている。
「なんか、俺が泣かせたみたいになってる」
「俊が、泣かせたん、でしょ……」
しゃくり上げていると、いつかのように手をそっと握られ、涙を拭われた。
それでも私の涙が止まらないことに俊はため息をつき、ハンカチを取り出した。
「勘弁してくれ、薫の泣き顔を見るのは辛い」
「悪かった、」と彼は謝った。
どうして困った顔すらも愛しく思えるのだろう。
カップルなんて羨ましくない、と思っていた。それは確かにそうだったのかもしれない。けれど私が本当に羨ましかったのは、俊といたあの頃の自分だったのだ。
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