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少しだけ昔に戻れたような気がして、私は微笑んだ。普段のストレスや悩みなんてもうどうでも良くなって、さっきの虚しい気持ちもどこかへ行った。
「クリスマスってさ、恋人達の為にあるようなものだよね。あと子供とか」
「そうか?俺は一人の人の為にもあると思うけどな」
「どうして?」と私は尋ねた。
「一人で片想いしている人が、クリスマスだからって告白できたりするだろ?バレンタインも似たようなものだと思うけど」
俊はそう言った。そして私と繋いでいる手を、グレーのコートのポケットにしまった。
「俺さ、今日薫がここに居たらいいなって思って期待したけど、普通そういうのって空振りじゃん。だからまさに聖夜の奇跡かなって。神様が贈り物くれたんだなって思ってさ」
「俊でもそんなロマンチックなこと言うんだ」
俊は繋いでいない方の手で頭を掻いた。どうやら少し恥ずかしかったらしい。おもむろに立ち上がって私の手を引く。
「あとさ、質問なんだけど」と私は言って、立ち止まった。「ん?」と俊は応じる。
「私達、もう一度始めるんだよね?」
その言葉は俊の方から言って欲しいから、敢えて使わなかった。俊ははにかんだ。
「......うん。薫、ずっと好きでした。もう一度俺と付き合ってくれませんか?」
「うん、もちろん」
周りからおお、と歓声が上がる。ああ、恥ずかしい。最近の私のクールなキャラはどこへやら。でも、まあいいか。
俊が私を抱きしめる。私も俊に身を委ねた。周りからは拍手が贈られた。私は俊の耳元で、「恥ずかしいじゃん」と言った。
「一生大事にするから」と俊は囁いた。
「プロポーズして欲しいなんて言ってないから」
「でも四年も我慢したんだし。プロポーズは改めてするにしても、もう絶対離さないから」
「変態みたいだね、その台詞」
「うるさい、黙って抱きしめられてろ」
多分この男は、私の乙女心を分かっている。顔が真っ赤になった。
私は恥ずかしくて、俊の胸に顔を埋めた。
俊は私の頭に顎を乗せて、優しく背中を叩いた。
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