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フィルムが切れた映画のように、突然目の前が暗くなる。そうして私は目を開く。
気が付くと、教室に西日が差していた。周りには誰もいなかった。目元が少しだけ冷たくて、それが夢だと私に告げる。心の奥が、しゅん、とした。
遠くで誰かの笑い声がする。遠くで何かの運動部が、マラソンをする声がする。随分、遠くに来ちゃったなあと、自分の中で呟いた。
「おうい、起きたか」
教室の扉から、覗き込んでいる人影が一つ、私を見つけて微笑んだ。
「一緒に帰ろ!」
「うん」
帰り道、空にはもう、霞はかかっていなかった。気温も随分落ちている。やはりまだ、ほとんど冬だと実感する。
「んで、今度の週末、開いてる?」
「ごめん、ちょっと」
私は苦笑いでそう言った。
「何?彼氏でもできたの?デート?」
彼女はにやにやと私を小突く。
「違うってば、お父さんがね」
「お父さんが?」
「笑わないでね?」
「笑わないよ!」
私は彼女に目を合わす。じっと目を覗き込む。彼女はいかにも真剣そうに、眉をひそめて頷いた。
「遊園地、行きたいって」
「やっぱりデートじゃん」
彼女はころころと笑って揺れる。
「もう、笑わないって言ったじゃん」
「ごめんごめん」
私はむすっとそっぽを向くと、楽しげに彼女は肩を揺らした。
「十三年のブランクを埋めたいとか言われたら、行ってあげるしかないじゃん」
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