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夏休み。
俺は必死に地元で就活をしていた。
最悪、母校で拾ってやるとは言われていたが、出来れば、自分の力で仕事を見つけたかった。
その日も暑く、俺はスーツのジャケットを脱いで、手で持ちながら駅から自宅までの道のりを歩いていた。
その時、陽炎の向こうに見えた光景に、
俺は無意識に足を止めた。
「久しぶり!先生」
「安藤……」
いつもはきっちり2つの三つ編みにしている髪が、今日はポニーテールにしていて、汗で項に張り付くおくれ毛が色っぽい。
「あっついね。お茶の約束は、まだ有効ですか?」
「もちろん有効。でも先生方に見えないところにしよう」
喫茶店で、二人してケーキセットを頼む。
男がケーキセットなんて、と笑われるのを覚悟していたが、安藤は何事もなく受け入れた。
ケーキセットを食べながら、いろんな話で盛り上がる。
最近読んだ小説のこと、観た映画、俺の大学生活について。果てには、俺が昔小説家を目指していたことまで話してしまった。
それについても安藤は笑わなかった。
なんだか、肩の力が抜けるようで、安藤といるのは気が楽だった。
別れ際、俺はポン、と安藤の頭を撫でた。
「また明日、この場所で」
「次に会うときは先生の小説読ませてね」
「もう先生じゃないんだし、歳も近いんだから、名前で呼んでよ」
「あ、晶さん……」
照れ隠しに空を見上げると、きれいな夕焼け空だった。
遙も空を見上げた。
「遥との初デートの最後に、いいもの見れた」
「うん、私も」
電車が入ってきて、遥は帰って行った。
翌週、俺は見事に内定を獲得した。
空を見上げると、雲一つない青空。
絶好の告白日和!
俺は遥との待ち合わせ場所である駅へと、軽い足取りで向かった。
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