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「……やっぱり駄目か」
「……なにやってんの、春日さん」
なんとなくバツが悪くて頬をかきながら、僕は春日さんに声をかけた。
「あれ? 雪野君? どうしてここに居るの?」
「こっちの台詞だよ。頭、雪、積もってるよ」
「え、嘘。もうそんなに時間経ったの?」
「いや、僕に尋ねられても知らないけど……何時からここに居るの?」
「んー、12時くらいかな」
「12時って……今14時だよ」
「あー、通りでお腹が空くわけだね」
「……何をそんなに夢中になって撮ってたの?」
「ひみつ」
「そう。ならいいけど」
「え、いいの? 雪野君になら話しても良かったんだけど」
「その、僕になら特別に、みたいに聞こえる言い方ずるいからやめて」
無駄にどきどきするから、と僕は心の中で呟く。
春日さんは「良いでしょ、セールストークっぽくて」と悪戯な笑みを浮かべる。
「で、知りたい?」
「まあ、気になるは気になるかな」
「仕方ないなー、教えてあげる」
春日さんはカメラを自分の首にかけたまま、隣の僕に写真を見せてくる。
距離近いって。マフラーからいい匂いするし。
集中できないなりにも映し出される写真を見ていくと、そこには幸せそうなカップルの姿がたくさん収められていた。
「……知り合い、ってわけじゃないよね」
「うん、知らない人達。私が見たいだけだから、肖像権は無視してね。これを見て雪野君はどう思った?」
「どうって……幸せそうだなって」
「そうよね。幸せそうよね。それに比べてこれはどう?」
「こっ!? ごほっ、げほっ」
「雪野君、風邪ひいてるの?」
「ひいてないよ!」
映しだされていたのは、ピンクのパジャマ姿の春日さんだった。
どうやら自撮りしたらしく、右手を手前側に伸ばした状態で映っている。
無表情であるところも気になるけれど、それ以上に男子としては二つ目のボタンまで空いた胸元が気になる。パジャマと同じ色のブラ紐がもっと気になる。こんな衝撃的な写真、急に見せられたらそりゃむせるって。
「今の写真の私、幸せそうに見えた?」
「……いや、そうでもないかな」
「他にもたくさんあるの。甘いもの食べてたり、好きなテレビを見てたりして、確かにその時は幸せだったはずなのに、どうしてか幸せそうに見えないの。雪野君はどうしてだと思う?」
切り変わる写真。それはいずれも自撮りだった。
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