1/2
前へ
/2ページ
次へ

僕はたぶん古風な人間だ。世間一般的に言われる今どきの若者だというのに煙草も吸うし、自分なりに義理や人情みたいなものを大事にする。自分を華やかに見せることだけに心血を注ぐような主流の女子ではなく、悠々としていて自分の世界を持っているような女子が好きだ。そして愛とか恋というものを神聖に考えているが故にチェリーボーイ。でも人を愛せないとかそういうわけではない。 講義の合間の休憩時間に煙草を吸って席に戻り、なんとなく煙草をやめようかなと考えていた時ににおいが原因で友人に煙草やめろと言われる。これが男だったり、悪い意味で特徴的な顔立ちの女子だったら聞く耳を持たない。でも大学で一番信頼していてしかも美人だから困る。適当にいなしつつ僕は後ろに座っていた女子の友人たちの誰かの悪口大会で中和した。覚悟を決めて告白しようと思っていたのにトイレに行きたいからとの理由で僕の覚悟をへし折った君にも煙草くさいと言われたことがあったっけなと思いながら上の空で教室の窓越しの秋の夕空を見つめる。 煙草のせいで痰が絡むようになってしまった喉を鳴らしながら本当に東京都なのかと疑問を抱くような大学からの帰り道。ロックンロールを聴きながら、ここから三十分もかからずにたどり着ける埼玉県の家からの最寄り駅のほうが栄えてると感じながら電車に乗ったことはもう何回あっただろうか。何度絶妙に座り心地の悪い電車の椅子に座っただろうか。何度峯田和伸のような男になりたいと思ったか。何度煙草をやめようと思ったか。何度君の手に触れたいと思ったか。なんてことを考えながら車窓に映る僕を眺めていた。駅に着いても朝早くから日が暮れるまで個性があるが故に無個性に感じてしまう教授たちの講義を受けた疲れを感じるよりも、帰り道の君に偶然会えないかと期待を抱いてしまう僕がいじらしくて、こみ上げてくる笑いを必死に抑え込む。そして今日も君に会えなかったことに落ち込んでホンダのトゥデイに跨る。漫画やドラマなら原付を運転している最中に楽しそうに他の男と歩く君を見かけてしまうのだろう。そうなったら川に原付に跨ったまま飛び込んで身も心も濡れてしまおう。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加