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自分が居た頃の京の都とは全く様変わりした様相に少し驚いたものの、自分の故郷である事に変わりは無いためにここで暮らしていくことを決意した。一応は元遣唐使、それなりの立場をもって出迎えられるだろうと思い朱雀門に向かった。だが、朱雀門で警備をする兵士に門前払いを食らってしまった。
「貴様のようなやつは知らん! 帰れ!」
「やれやれ、もう貴族ですら無くなってしまったと言うことか」
若者は京の都を歩いた。長安の都とよく似た町並みながらに似て非なるものと言う複雑な思いを胸に秘めながらまだ名前を知れぬ小路を歩いていると、目の前より牛車が来るのが見えた。しかしその牛車、牛がおらず、御簾があるべき場所には巨大な般若の顔があり、車輪が炎で燃えていた。
「京の都にもあの様なものが出るようになったか」
若者は軽く退治してやろうと前に出た。しかし、それより前にいかにもと言った貴族の風体をした男が立ちはだかる。
「そこな下人よ、下がっておれ」
下人呼ばわりされた事に若者は腹を立てた。しかし格好が格好だけに仕方なかった。今の格好は祇園精舎にて与えられた庶民の服をそのまま着ていただけに下人と間違われるのはやむ無しだった。
「貴様、京の都を荒らす異形の者、朧車と聞く! 貴様、何人も京の民を轢き殺しておるそうだな! この狼藉許せぬ! この陰陽師、斗賀蒔高次(とかまく たかつぐ)が成敗してくれる!」
この時点で若者は斗賀蒔某とか言う陰陽師が「弱い」と言うことを察していた。剣と剣で斬り結ぶ勝負ならまだしも、呪いを使ってくるような異形の者を相手にして自分の真名を名乗る軽率さに怒りと呆れを感じていた。朧車は表情を変えずに斗賀蒔の方に突っ込んできた。斗賀蒔はそれに対して五芒星を切り何やら唱えだした。
「急急如りっ うわっ」
急急如律令の呪文を唱え悪霊退散に導こうとしたのだろう。だが、この実戦においてこんな長い呪文を唱えさせてくれる優しい事がありえるだろうか。そんな事ある訳がない。途中まで唱えた所で斗賀蒔は朧車に跳ね飛ばされてしまった。使えない人形の紙をぽいと捨てた時のように宙を舞うその姿に若者は呆れを通り越して同情すら覚えるようになっていた。
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