輝ける伽

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こうして何もかもが終ってからの十日、誉栄は悶々とした日々を送っていた。万象の屋敷で食べた食事が忘れられなかったからだ。別に依頼も何も無かったのだが食事を食べるために万象の屋敷に行こうとしたのだが始めに来たときと同じに延々と壁が並ぶだけの道に迷い込んでしまった。 「全く、食客にもさせて貰えんと言うか」 舌打ちをしながら踵を返すと賑わっている朱雀通に戻ってしまった。トボトボと朱雀通を歩いている内にこれまでのことは全て夢だったのではと思うようになっていた。こうでもなければあの輝ノ皇子が夜這いをやめるはずがないし、これまで見てきた不可思議な現象にも説明がつかなかった。道行くものに「頬をつねれ」と言うが庶民が貴族の頬をつねろうものなら即晒し首になってもおかしくないので誰もつねろうとしない。仕方なく自分でつねった所、確かに痛みがあった。 あの日々は何だったのだろうと思いながら大通りを歩いていると町人の噂話が聞こえてきた。 「なあ、十日ぐらい(めぇ)の話なんだけど」 「何だよ、お前酒飲んだ後のホラはもう聞き飽きてるんだ、法螺を吹くならもう少し腕磨いてこいよ! この前も小さな龍が飛んでるの見たとかってほざきやがって」 「チゲぇんだよ! 龍も本当だけどもっと凄えの見たんだよ! 宵の宵なのにお天道様みたいに光るものが牛運んでたんだよ! ありゃあきっと鬼の城だ!」 「そんなのが牛拐うわけねぇだろ! 馬鹿野郎が! これからお前はホラ吹き飲ん兵衛って呼ぶことにするぞ」 「オラァ絶対嘘なんて言ってねぇ!」 このやり取りを聞いていた誉栄は「あの者が何かやらかせば会えるだろう」と思いながら自らの主君、輝ノ皇子の屋敷に戻るのであった。
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