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「馬医よ、お主の目は節穴か。その役に立たぬ目を抉り出し京の外に打ち捨てられたいのか?」
「い、いえ。とんでもございません」
「ふん、安芸の国にこの様な体の赤き鶏がいると聞く。大方それの尾が長いものでも掴まされて、騙せるとでも思うたのであろう」
尾長鶏の少し体が赤めのものを持ってきただけのことだった。これで騙せると思っていた商人の思慮の浅さが死を招いたのである。
続いて、箱の中身を見せるは位の低い貴族。
「今度こそ本物の朱雀でございます、方方駆けずり回ってやっと蝦夷にほど近い坂東の地にて捕まえる事が出来ました!」
竹の網の向こうに見えるのは確かに赤い体をする何かであった。
「うむ、しかし暗くてよう見えぬ。もう少し日の光があたるように檻を向けてはくれぬか」
坂東に行った貴族は檻を日に向けた。中にいたのは昔より伝わる朱雀の特徴がそのまま当てはまる鳥であった。全身は炎に燃えるかのような赤色。頭は鶏に似、蛇のような長い首を持ち、得利のような腹を持ち、目玉のような文様のついた尾羽根を持つ紅い鳥であった。
「確かに朱雀の特徴そのものであるな。その者、人語を解することは出来るのかな」
「いえ、ですが外見は間違いなく。個体によって喋ることが出来るものとそうでないものがいるのでございます」
新文は朱雀とされる鳥を舐め回すように眺めた。その目は真剣そのものであった。
「胸の肉、触らせて貰って良いか」
その瞬間、坂東に向かいし貴族は青ざめたような顔をした。そして言った。
「これが朱雀であるのは明白な事実。早く私めの官位を上げてくだされ」
「そう言えば坂東は南にあるという島の神社にて雪のように白い孔雀が生まれたと言う話
を風の噂で聞いたのだが」
「それはめでたい話でございます」
「遥か西の国の水辺にはフラミンゴなる片足立ちたる不思議な鳥がおると言う」
「ふ、ふらみんごでございますか」
「そのフラミンゴ、鶴のような白い色なのだがその池にいる藻や蟹や海老を食べる事で見るも見事な紅色になると言う。その紅色丹頂鶴の頭也や」
「ですから、そのような話とこの朱雀と以下用な関係が」
「更に風の噂で聞いたのだが、その坂東より南の島にあると言う神社から白き孔雀が消えたと言う。そして、お主も高野山の近くの荘園にて池付きの屋敷を買うたそうだな」
「何のことやら身に覚えがありませぬ」
坂東に向かいし貴族の目は明らかに泳いでいた。
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