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地面と口づけをする斗賀蒔は立ち上がろうとするが、それに対して朧車は容赦することは無くそのまま轢き潰してしまった。遺言が最後まで言えなかった急急如律令と言うのは余りに哀れとしか言いようが無い。
「その弱き身で異形と戦うとは…… その勇気に免じて仇はとってやろう」
若者は斗賀蒔の死体の前に立った。それに気がついた朧車は口より炎を吐き出した。その炎に巻き込まれ若者と斗賀蒔の死体は一瞬で灰となった。あれだけの事を言っていた若者が一瞬で燃やされるとは、その若者の方が口だけだったのでは無いか。
朧車がその場から引き上げようとした時、屋根の上に重さを感じた。鬼の顔をした首を少し出して屋根の上を見ると先程燃やしたはずの若者が腕組みをして立っているのが見えた。
「お前は先程燃やしたはず」と言った顔で若者を見つめる朧車。そんな朧車をよそにひらりと舞い顔の前に下りる。
「人形の紙一枚燃やしたぐらいで勝った気になるとは愚かの極み」
そう、若者は自分と似せた人形を身代わりにしたのだ。
「貴様、元が牛車の割には素早いな。牛車なら牛車らしくのんびりと歩いたらどうだ?」
若者は人差し指で縦一文字を切った。そしてドルイド達との交流で学んだ呪文を唱えた。
「イサ!」
その瞬間、朧車の両側の大輪が外れくるくると回った後に小道の両脇に倒れた。朧車は腹から地面に叩きつけられた。激痛に歪む顔をしながら青年を睨みつける。イサとはドルイドにおける停滞の意味であり、大輪を外す事によってその身を停滞させた。
「立派な牛車だな、このようになる前はさぞかし名のある貴族を乗せてたのであろうな。どれ、ちょっと私に教えてはくれぬか?」
若者は地面に這いつくばり動けずに苦しむ朧車に近付く。朧車はそれを見て炎を吐き出して焼こうとするが思うように炎を吐くことが出来ない。口の回りが真冬を思わせる様に冷たく開かないのだ。イサには複数の効果がある。一つは相手を停滞させる事。そしてもう一つは凍らせる事。始めに炎を吐かれた時に厄介に感じた青年は車輪を取ると同時に炎を吐かせる事を止める事を考えた。この二つが同時に出来る呪文はイサであった。必死に炎を吐き出そうとする朧車に構わずに青年はその額に触れた。
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