序章

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斗賀蒔はヤミ陰陽師の説明を始めた。本来陰陽師になるには朝廷の許可がいるのだが、その許可を得ずに勝手に陰陽師を名乗っているのがヤミ陰陽師である。本来陰陽道は日本においては朝廷の管理する陰陽寮でしか学べずに門外不出であるのだが、管理が甘い上に辞めた陰陽寮の者が流出させてしまうために外に出放題であった。それ故にヤミ陰陽師と言うものが民間に出てきたのである。 「なるほど、独学で外に出たにわか仕込みの陰陽道で金を稼ぐ不届き者と言うことか」 「いやぁ、化け狐や狸にドーマンセーマン言ったり、亀の甲羅焼いて適当こいてるだけで金貰えるんだからやめられませんよ」 「呆れた奴だな」 「それ言うなら旦那だって怪しいもんですよ。一応陰陽道の基礎は学んでるので分かるのですが、旦那のは明らかに陰陽道から外れた呪文使ってますよね」 「陰陽道に外つ国の(まじな)いを混ぜたものだからな。私は今夜の(ねぐら)を探さねばならんのだ。さっさと成仏しろよ」 「ま、待って下さいよ。だったら私の家をお使い下さい」 「はぁ? いきなり家とはどう言うことだ」 「いやー私ご覧の通りの体ですし、家も無駄になっちゃうじゃないですか。このまま朝廷に持ってかれちゃうぐらいなら旦那に住んでもらった方が」 「家族は? おらんのか?」 「いませんよ、天涯孤独です」 「女もおらぬのか」 「はい、生身の女は怖い故に人形(ひとがた)で女を作って伽をする毎日でさぁ」 何と虚しい男なのだ。こう心の中で呟いた若者はふぅ~と斗賀蒔の灰に向かって息を吹きかけた。 「ちょっと! 勘弁して下さいよ」 「良かったな、ヤミ陰陽師として人を欺いた罪も女と交わらぬ清らける身であれば帳消しになる。天界か極楽浄土に行けるやも知れぬぞ」 「本当ですか! でもちょっと悲しい……」 その時、大きな風が吹いて斗賀蒔の灰が京の都の宙に大きく舞った。  
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