月は鏡 

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「久しぶりのお客様です」 「やあ、久しぶりだね。紹介しよう、私に仙術を教えてくれた師匠だよ」 万象は事情を話した。 二人は興味なさそうに万象の話を聞いていた。普通の人間であればこんな話を聞けば訝しげな顔をするのが普通なのに二人にはこれがなかった。姫を騙すと言うことに対しても何も思わないのだろう。 「ああ、こういうことならどうぞどうぞ。折ったとて知らぬ内にまた生えてきますので。どうせなら木一本まるごと持っていっても結構でございますよ」 「い、いえ。そこまでは」 蔵馬の皇子はお言葉に甘えて蓬莱の玉の枝を一本ポキりと折った。金で出来ている割には簡単に折れたところ、これこそ如何様な物ではないかと疑い始めていた。 万象が唐突に口を開いた。 「そう言えばここも随分人数が減ったものだね。仙人も仙女もまばらにしかいないではないか。でも君たちにとっては気にしないのだろうけどね」 「ええ、いつの間にかいなくなっておりました」 「いつ頃だい? いなくなったのは」 「気にしませんので……」 「天人五衰の時期ではないだろう」 「ええ、まだまだ先となっております。思い出したことが」 「なんだい? 教えておくれ」 「いなくなった方たちはここでの暮らしをとても退屈としておりました。新たな仙境を求めたと思われます」 「君たちのように尸解しても「退屈」って気持ちが残る方もいるものかね」 「珍しい話ではありません、孫悟空様のような仙人の身でありながら人に悪さをする妖仙もお見えになられたので」 「じゃあ、いなくなったのって」 「ええ、尸解しても人の感情が僅かに残ったり一部だけ残る場合があるのです。私達のような者はそのような方がいても気にしませんので……」 二人は蓬莱山を後にした。蓬莱山の実態を知り色々とモヤモヤすることはあったが正真正銘本物の蓬莱の玉の枝と真実味のある話どころか真実を話すことが出来て心は舞い踊っていた。 「これで神来夜姫と結婚出来るな」 「ああ、そなたのおかげだ。本当に感謝するぞ」 「いえ、私からしたらほんの軽い散歩のようなものですからお気になさらずに」 蔵馬の皇子は牛車を田貫の造の屋敷に走らせるのだった……
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