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昼寝
西京院万象は昼過ぎより自らの屋敷の階にて五目並べを行っていた。相手は山月ノ虎王と言う虎の式神である。
「万象様、随分と久しぶりですね。こうやって碁をするのも」
指と指の間に碁石を挟んでピシっと言った激しい音が出る勢いで置く。肉球と黒の碁石が似すぎていてぱっと見では手の何処に碁石があるのか分からない。
「何を言っとるか。これは五目並べで囲碁ではない」
「どっちでも良いですよ。一応は山道歩いている間もどうやったら五個を上手く並べられるか考えているんですよ」
「そうか」
「そうだ、万象様。最近、好きな虎が出来たのですよ」
「めでたいことだ」
「でも、その虎は競争が激しくて…… 高嶺の花なんですよ、真白くて雪のように可愛いのですよ、白虎ちゃんと呼んでます」
「勝手にすれば良いではないか。人と違って獣には『決まり』はないのであろう。お主とて妻がいるのであろうが咎められることもないだろう」
「それはそうなんですけどもう一つ問題が」
「何だ」
「その白虎ちゃん、普通の虎なのですよ。私みたいな式神は後数百年生きられますけど、その白虎ちゃん十年ぐらいしか生きられないので…… このまま付き合うとなると別れが辛くて」
「身を引くのが懸命だな。同じ時を過ごせぬものを見送ることは辛いことであろう」
「それでも諦め切れないんですよね、あの雪と黒が重なる縞模様に惚れてしまったのです」
「面倒な奴だ」
盤面がその白虎の縞模様に似てきた。
「その白虎、白い故に人によく狙われるのですよ」
「不幸な話だな」
「それで、雪山の人があまり来ない所に縄張りを変えようかって相談をされたんですよ」
「白い体であるならそれが一番いいと思う、白いと言うことは寒い場所で暮らすべきではないのか」
「別れたくないです」
「好きだからこそ突き放すと言うこともあるぞ。この白虎の身を第一に考えてやるのだな」
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