僕らが求めた不老不死

1/80
179人が本棚に入れています
本棚に追加
/171ページ

僕らが求めた不老不死

 左大臣、曙新文(あけぼの あらふみ)の屋敷に次々と何かを入れた箱が運ばれる。運ぶのは名うての猟師、河辺津より参りし商人、左大臣に名を売ろうとする位の低い貴族、様々であった。彼らは中庭に並ばされ一人ずつ(きざはし)にて偉そうに鎮座する新文に箱の中身を見せてゆく。 「ほう、これが朱雀であるか」 「はい、熊襲の国の火山の火口より眠っている所を捕らえて参りました」 名うての猟師は背に背負った籠より紅い鳥を出し、(きざはし)の前に置かれた布の上に乗せた。 「馬医(うまのくすし)よ、これが本物の朱雀であるかの見聞を頼むぞ」 馬医は平安時代における獣医である。牛車の牛の診断が主な仕事であるが、獣医として貴族が戯れとして飼っていた小動物の治療も行っていた。今回は新文が命じた「朱雀の真贋」を確かめる為に呼ばれていた。正直なところ畑違いの仕事ではあったが動物に関して分かるものが殆ど居なかった為に白羽の矢が立ってしまった。 馬医は死後硬直で硬くなった朱雀と思われる鳥の体を触りまわった。すると、両の手の平が真っ赤になった。 「曙殿、これは朱雀ではございません。多分、そこいらの山辺りで狩った雉を大量の艶紅(口紅)に漬け込んだものでございます」 「連れて行け」 名うての猟師はすぐさまに隣の庭に連れて行かれ、首を跳ねられた。朱雀を捕まえてこいと言われ捕まらなかったからと言って雉で誤魔化せると思ったのだろう。狩りの腕はあるようだが誤魔化すための頭が足りない故の不幸であった。 「次は唐の国より買い付けてきたこの私めの朱雀を御覧ください」 籠より出てきたのは全身真っ赤な毛をし、鶏冠も勿論の事赤く、尻尾の長い鳥であった。 「ほう、これはこれは」 馬医はうんうんと頷きながらじっとその鳥を眺めた。 「唐の国は蓬来山より捕まえてきたもの、間違いないと思われます」 「ほう、唐の国からのう? それは(まこと)か?」 「はい、間違いないと思われます」 「連れて行け」 商人は顎を落とし絶望が顔に顕れた。何故にこれが偽物だと見破られたのか疑問に思う顔でもあった。 「もう唐の国なぞとっくに無いわ! 今のあの国は宋と言う国になっておるわ! 我が知らないと思うてか!」 「しかし、この赤き体、確かに朱雀そのものと」
/171ページ

最初のコメントを投稿しよう!