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2. 珍妙な訪問者。
「おはようございまー――」
ドアを開けると同時に、問いただす。
「ひなみはどこですか!」
今の順子の耳に、挨拶など入らない。暗い部屋から出たため、明るさに慣れるまで目の前にいる2人の人物の詳細はわからない。元よりそんなことを気にしている余裕など順子にはないが。
挨拶をしなかった長い髪の女が、ムッとしたのか順子の両肩に掴んだ。
それを挨拶した方の男が手で制して、
「どーどー。落ち着いて。まだ早朝ですよ」
と、女と順子の両方に向けてそう言った。
それで女は動きを止めたが、順子は少し過呼吸になりながら繰り返す。
「あの! あの! ひなみはどこなんですか!」
その声のボリュームの大きさと、目を見開いて顔面蒼白になりながら、逆に女につかみかかる順子に、2人は一瞬たじろいで、顔を見合わせる。
女がニッコリと微笑むと、男はしょうがないな、とばかりにため息をついて、
「お手柔らかに」
と言い残し、ドアから少し離れて煙草を取り出し火を点ける。
女は笑顔のまま、顔だけを順子の方に向けて、顔とは違って笑ってない目でじっと順子の顔を見つめる。
焦れったくなった順子が震える唇をわななかせながら、
「あの……」
と再び叫ぼうとすると、
「あ・い・さ・つが――まだじゃろがーー!!」
そう叫びながら、笑顔のまま女は順子に頭突きを見舞う。
* * *
目覚めると、ひなみがいない。
勢いで上半身を起こすと、頭がズキリと痛む。
「あららー、ちょっとまだ、寝てなって」
肩を掴んで布団に横たえられる。気を失って、順子も幾分冷静さを取り戻していた。
はじめて認識した印象は、すごく綺麗だな、だった。
長い茶髪が自分の顔に落ちてきていて、覗きこむくっきりした二重の目が特に印象的だった。ハッとするほど白い肌だけど、おでこだけが赤くなっていた。
「あ、起きた-?」
声のした方、台所の方を見ると、先ほどの男が何かを作っていた。
匂いで、コーヒーを淹れていることがわかる。ウチにコーヒーなんてないはずだから、持参したのだろうか?
男がお盆に色々乗せてこちらまで運んでくる。
男の印象は、なんとも言えなかった。小柄だけどガタイがよく、顔に刻み込まれた皺が厳しさを物語っているのと同時に、どこか愛嬌を感じさせる。服装がオタクっぽいのに、全体的に爽やかな雰囲気を醸し出している。
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